24.(はく)にゅうどう

               




(はなし)場所(ばしょ) ・・・  西伊豆町(にしいずずちょう)











 これは仁科(にしな)堀坂(ほりさか)(つた)わる(はなし)です。

むかし、堀坂(ほりさか)では、

どの(いえ)でもかいこを()っていて、

(いえ)(なか)には ()るところも ないくらい

かいこ(だな)がありました。
   かいこのまゆから(ぬの)()生糸(きいと)をつむいで()ったり、

 山田(やまだ)(こめ)(つく)ってくらしていました。

 そのため、山奥(やまおく)にある段々畑(だんだんばたけ)には、

 たくさんの くわの()()え、かいこのえさにしていました。

 村人(むらびと)たちには、くわの()は、とても大事(だいじ)なものでした。
  この堀坂(ほりさか)に、

 とても(はたら)(もの)()のやさしい

 お(ふく)というおばあさんが()んでいました。

 きょうも、お(ふく)ばあさんは、

 しょいこに(おおき)なかごをくくりつけ(はく)にゅうどう(やま)へ、

 つえをつきながら山道(やまみち)(のぼ)って()きました。

 ようやく(やま)()いたのは、もう昼近(ひるちか)くになっていました。
  パリパリと、一枚一枚(いちまいいちまい)

 ()っぱをつみ()ってはかごにつめました。

 いっぱいになった(おも)いかごを背負(せお)って(やま)をくだる(ころ)は、

 すっかり()()れていました。

 「さ、(いそ)がないと(みち)(くら)くなるなあ。」 と、

 ひとり(ごと)をいいながら、山道(やまみち)をくだりました。
  (いし)をならべた(やす)()にかごをおろし、

 (あせ)をふいていると、 「ウキャン ウキャン」

 と、いう動物(どうぶつ)()(ごえ)()こえました。 

 「おや。」 (なん)()(ごえ)だろうと

 ()()がってあたりを()まわしましたが、

 (なん)姿(すがた)()えません。
  (iいた)そうな、(かな)しそうな()(ごえ)が、

 どうしても()になってなりませんでした。

 お(ふく)ばあさんは、

 (くさ)をかきわけ(うえ)(ほう)(のぼ)って()きました。

 すると、山芋(やまいも)()った(おお)きな(くら)(あな)(なか)に、

 可愛(かわい)()ぎつねが、

 ()(ひか)らせて もがいているのでした。
   「まあ、かわいそうに。」 と、

 お(ふく)ばあさんは、(あな)へさかさまになって ()()ばし、

 ()ぎつねを()っぱり()げ、

 「もう()ちんなよー。」 

 と、いって()がしてやりました。

 ()ぎつねは、うれしそうに杉林(すぎばやし)をくぐり()け、 どこかへ姿(すがた)()してしまいました。
   そんなことがあってから四・五(ねん)たったある()のことでした。

 村人(むらびと)が、くわの()をつみに(やま)()かけました。 

 あたり一面(いちめん)にくわの()()らばり、(はたけ)

 ()らされているではありませんか。
  (はたけ)のまん(なか)には、三本(さんぼん)(ふと)(すじ)(のこ)り、

 けものの(あし)あとが、点々(てんてん)(つづ)いていました。

 (おどろ)いた村人(むらびと)は、(いそ)いで(やま)をかけおり、

 村中(むらじゅう)人々(ひとびと)にこの様子(ようす)(はな)しました。
  そのころ、堀坂(ほりさか)には、
 (やま)をこえて大田子(おおたご)(つづ)(みち)がありました。

 八兵衛(はちべえ)さんは、きょうもたくさんの荷物(にもつ)(うま)()にのせて、

 この(みち)堀坂(ほりさか)()かっていました。
 あたりは、すっかり(くら)くなっていました。
  山道(やまみち)途中(とちゅう)までくると、 「お(ふく)やーい。 お(ふく)やーい。」

 と、()(こえ)がしました。 

 (いそ)いで()()ってみましたが、(なに)()えませんでした。 

 しばらくすると  「お(ふく)やーい。」 と、

 ()(こえ)がしました。
  びっくりしてふり()くと、

 ぼーと(しろ)い影が山道(やまみち)横切(よこぎ)りました。

 「うわ〜〜〜! ばけものだ〜〜〜〜!」 

 八兵衛(はちべえ)さんは、(うま)をほっぽらかして、

 ()にものぐるいで()げました。

 この(はなし)は、たちまち堀坂(ほりさか)人々(ひとびと)(あいだ)(ひろ)がりました。
   「そんなことがあるもんじゃない。」

 と、お(ふく)ばあさんは、村人(むらびと)のとめるのも()かず、

 しょいこを背負(せお)って、八の(だん)草刈(くさか)りに()かけました。

 (やすみ)()一汗(ひとあせ)ふいていると、

 「お(ふく)やーい。 お(ふく)やーい。」 と、

 (とお)くの(ほう)から ()(こえ)()こえました。
  いくらあたりを()まわしても、

 ()ぶ者の姿(すがた)()えませんでした。

 この(はな)は、また、堀坂(ほりさか)村中(むらじゅう)(ひろ)がっていきました。

 (むら)(おとこ)たちは、

 毎晩(まいばん)集会所(しゅうかいじょ)(あつ)まっては、この(はな)をしました。
  しかし、だれひとりとして、

 その正体(しょうたい)をつきとめようとはしませんでした。 

 みんな()(ごし)で、 「おれが()って()るぞ。」 と、

 いう(もの)がありませんでした。

 (つぎ)(つぎ)(ばん)のことです。 

 「よし、おれが()って()るぞ。」 と、

 (ふと)いまゆげをピクッとさせて、十兵衛(じゅうべえ)じいさんが()()がりました
  十兵衛(じゅうべえ)じいさんは、(いえ)(いえ)んで()り、

  むかし使(つか)った鉄砲(てっぽう)を、納屋(なや)から()()し、

  みがき(はじ)めました。

  ちょうど、そこへ、お(ふく)ばあさんが(とお)りかかりました。

  十兵衛(じゅうべえ)じいさんは、

 ()(もの)がお(ふく)ばあさんをしたっていることを おも(おも)()し、 ポンとひざをたたきました。
  「どうだい、お(ふく)ばあさん。

 (おれ)一緒(いっしょ)山小屋(やまごや)まで()かないかな。

 どうやらばけものは、お(まえ)には、手出(てだ)ししないようだ。」

 そう()って、

 いやがるお(ふく)ばあさんをむりやりさそって、

 山小屋(やまごや)()かけていきました。
  十兵衛(じゅうべえ)じいさんと、お(ふく)ばあさんは、

 小屋(こや)(なか)からじっと()をこらして(そと)のようすを()ていました。

 あたりは、だんだん(くら)くなってしまいました。

 しばらくして、二人(ふたり)(おも)わず(いき)をのみこみました。
  ()(ふか)真白(まっしろ)なきつねが、

 (やま)から小屋(こや)めがけて かけおりてくるではありませんか。

 ビューン ビューンと(おと)をたてて()()りながら、

 小屋(こや)()びかかろうとしているのです。
  十兵衛(じゅうべえ)さんが、鉄砲(てっぽう)をかまえると、

 不意(ふい)に、もすごい(いき)いで小屋(こや)が、まわり()しました。

 びっくりした お(ふく)ばあさんが、 

 「たすけてくれ〜〜〜!」 と、 悲鳴(ひめい)をあげました。
  すると、どうしたことでしょう。

 ぐるぐるまわっていた小屋(こや)は、ぴたりと()まりました。

 十兵衛(じゅうべえ)じいさんと、お(ふく)ばあさんは、

 おそる おそる (そと)にでてみると、

 (しろ)いきつねが()っているので びっくりしました。
  (しろ)いきつねは、

 お(ふく)ばあさんをなつかしそうにじっと()つめ、

 「ウキャ〜〜〜ン。」 と、

 一声 大(ひとこえ おお)きくほえると、

 ()きを()えて山奥(やまおく)(ほう)へかけていきました。 
    「あっ、あれは、あの(とき)のきつね・・・・・。」 

 お(ふく)ばあさんは、その姿(すがた)をぼうぜんと見送(みおく)っていました。

 十兵衛(じゅうべえ)じいさんは、

 にぎりしめていた鉄砲(てっぽう)(ひき)(がね)(ひき)くことができませんでした。
   それからというもの、 このきつねの姿(すがた)()(もの)は、だれもいません。

 いつからか村人(むらびと)たちは、 このきつねを「(はく)にゅうどう」 と、 ()んでいます。
仁科(にしな)堀坂(ほりさか)部落(ぶらく)

 

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